「お盆はいつですか?」
そう尋ねられると、多くの方は「8月13日から15日、または16日頃」と思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、日本のお盆は全国どこでも同じ日に行われているわけではありません。
現在のお盆は、大きく分けると、
・新暦7月に行う「7月盆」 ・新暦8月に行う「月遅れ盆」 ・旧暦7月に行う「旧暦盆」
の三つに分けられます。
ところが、昔から日本のお盆がこのように地域ごとに分かれていたわけではありません。
実は、現在のような違いが生まれたのは、日本のお盆の長い歴史から見れば比較的新しいことなのです。
【昔のお盆は、ほぼ全国で旧暦7月でした】
明治時代に暦が改められる以前、日本ではほぼ全国で、旧暦7月13日から15日、または16日頃にお盆を行うのが一般的でした。
現在のように、ある地域では7月、別の地域では8月、そして旧暦のまま行う地域もあるという形になったのは、明治時代の改暦以降のことです。
日本では明治6年(1873年)から、それまで使われていた旧暦に代わり、現在の新暦が採用されました。
それから百五十年以上が経ちましたが、お盆の長い歴史から見れば、現在のような地域差は比較的新しく生まれたものだといえるでしょう。
【優しく夜空を照らす満月の頃に】
そして、旧暦のお盆は、ちょうど満月に近い月が夜空を優しく照らす頃でもありました。
静かな夏の夜、真ん丸なお月さまを眺めながら、ご先祖さまをお迎えする──そんな情景を思い浮かべると、昔のお盆が今以上に情緒あふれる行事だったことが感じられます。
真言密教では、優しく夜空に輝く満月を、仏さまの清らかで円満な心の象徴として大切にしてきました。月輪観(がちりんかん)や阿字観(あじかん)の修行でも、満月を観想しながら静かに心を調えていきます。
優しく夜空を照らす満月の頃、仏さまとなられたご先祖さまも帰ってきてくださる。
昔の人々は、そのような自然の営みの中で、ご先祖さまとの再会を感じていたのかもしれません。
【もう一つ興味深いことがあります。】
日本では古くから、一年の節目に神さまやご先祖さまをお迎えし、おまつりする行事が大切に受け継がれてきました。
お正月には歳神(としがみ)さまをお迎えし、一年の家内安全や五穀豊穣を祈ります。
そして夏の旧暦7月には、お盆をはじめとする行事が営まれ、ご先祖さまをお迎えし、感謝を捧げ、再びお送りするという習わしが続いてきました。
民俗学では、このように一年の前半と後半の節目に、神仏や祖先と向き合う行事が集中していることが指摘されています。
それぞれの節目に祈りを捧げ、災厄がなく、実り豊かな日々を願う――。
そうした人々の祈りが、日本の年中行事を今日まで支えてきたのでしょう。
【明治の改暦で、お盆の時期が分かれました】
明治の改暦によって旧暦から新暦へ変わると、それまで旧暦7月に行っていたお盆を、新しい暦でいつ行うかという問題が生まれました。
その結果、地域によって受け継ぎ方が異なり、現在のような三つのお盆が生まれました。
【新暦7月に行う「7月盆」】
新暦の7月13日から15日、または16日頃に行われるのが「7月盆」です。
主な地域としては、
・東京都の都市部を中心とする地域 ・神奈川県の一部 ・静岡県の一部 ・石川県金沢市の一部 ・北海道函館市の一部
などが知られています。
明治の改暦の際、それまでの「7月13日」という日付を、新しい暦でもそのまま受け継いだ地域です。
ただし、「関東地方はすべて7月盆」というわけではなく、同じ都道府県内でも7月盆と8月盆が混在している地域があります。
【全国で最も多い「月遅れ盆」】
現在、日本で最も多く行われているのが、新暦8月13日から15日、または16日頃に行われる「月遅れ盆」です。
北海道、東北、北陸、甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州など、全国の広い地域で受け継がれています。
大阪をはじめ、8月15日までをお盆とする地域もあれば、16日に送り火を行う地域もあり、その期間にも地域差があります。
明治の改暦後、新暦7月では季節が早くなり、農作業の忙しい時期とも重なりました。
そこで、従来の季節感を大切にするため、一か月遅らせて8月にお盆を行う地域が増えていきました。
これが現在の「月遅れ盆」です。
実は、多くの方が「昔からのお盆」だと思っている8月のお盆も、長い歴史の中では改暦後に定着したお盆の形なのです。
【今も旧暦で迎える地域があります】
現在でも、旧暦7月13日から15日、または16日頃を基準としてお盆を迎える地域があります。
代表的なのが、
・沖縄県 ・奄美群島など南西諸島の一部
です。
旧暦のお盆は毎年日付が変わるため、新暦では8月になる年もあれば、9月になる年もあります。
沖縄では現在も旧暦による年中行事が暮らしの中に深く根付いており、お盆も大切な伝統として受け継がれています。
【「旧盆」と「月遅れ盆」は同じではありません】
少し分かりにくいのが、「旧盆」という言葉です。
日常会話では、8月のお盆を「旧盆」と呼ぶことがあります。
しかし、暦の上で考えると、毎年8月13日から15日頃に行われるお盆は「月遅れ盆」です。
一方、本来の旧暦7月の日付に合わせ、毎年日程が変わるものが「旧暦盆」です。
似た言葉ですが、この二つは区別して考えると、お盆の歴史がより分かりやすくなります。
【7月と8月、どちらが本当のお盆でしょうか】
現在では、「お盆といえば8月13日から15日頃」という印象を持たれている方が多いかもしれません。
しかし、それは長い歴史の中で形づくられてきた、お盆の一つの姿です。
もともとは旧暦7月に行われていたお盆が、明治の改暦をきっかけに、それぞれの地域の暮らしや季節、農作業などに合わせて受け継がれてきました。
7月盆も、月遅れ盆も、旧暦盆も、どれか一つだけが正しいということではありません。
日本には、それぞれの地域で大切に守られてきたお盆の文化があります。
そうした違いを知ることで、お盆という行事の歴史や文化の豊かさを、より身近に感じられるのではないでしょうか。
【大切なのは、ご先祖さまを想う心】
お盆には、精霊棚を飾り、迎え火を焚き、提灯を灯し、送り火でご先祖さまをお送りします。
そうした昔からの習慣には、大切な意味があります。
しかし、お盆の本当の目的は、形式を整えることではありません。
普段は忙しく、ご先祖さまや亡きご家族のことをゆっくり思い出す時間がないという方も、お盆には少し手を止め、お仏壇に手を合わせ、お墓を訪ね、亡き方を偲んでみてはいかがでしょうか。
7月であっても、8月であっても、旧暦であっても、ご先祖さまを想い、感謝し、手を合わせる心に違いはありません。
お盆は、亡き方をご供養するとともに、今を生きる私たち自身が、受け継がれてきた命のつながりを見つめ直す大切な機会でもあります。
今年のお盆も、それぞれの地域で受け継がれてきた風習を大切にしながら、ご先祖さまへ「おかえりなさい」と心の中で語りかけてみてはいかがでしょうか。
日にちが違っても、ご先祖さまを想う心は、日本中で変わることはありません。
お正月には歳神さまを迎え、お盆にはご先祖さまを迎える。
一年の節目ごとに、大切な存在をお迎えし、ともに時を過ごし、感謝を込めてお送りする。
私は、この繰り返しこそが、日本人が長い年月をかけて受け継いできた「おまつり」の心なのではないかと思います。
合掌



コメント